米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研究チームが、新しいタイプの量子コンピュータの開発に成功した。特徴は、まるでレゴブロックを積み重ねるように小さな部品を組み合わせて大きな計算機を作り上げる点にある。これまでの量子コンピュータは、数百万もの量子ビットを一つの巨大な装置にまとめなければならず、その規模と複雑さが大きな壁となってきた。しかし今回の研究では、小さなモジュールを順番につなげる「モジュール型設計」を採用し、その仕組みが実際に高い精度で動作することを示した。忠実度は約99%に達し、誤差がほとんど生じない水準であることが確認されたのである。この成果により、大規模でありながら柔軟に構築できる量子コンピュータが現実味を帯びてきた。さらに、モジュールを付け替えたり組み直したりできるため、エラーに強く再構成も可能であり、将来的には量子インターネットや分散型の計算基盤を支える重要な技術になると期待されている。研究結果は『Nature Electronics』に掲載され、量子ネットワークの実現に向けて大きな進歩であると専門家からも高い注目を集めている。
ニュース詳細

LEGO発想が量子計算機に
量子コンピュータを一体型の巨大な装置として設計すると、規模が大きくなるほど誤差が積み重なり、操作や制御もますます難しくなる。そのため、性能を安定させたまま大規模化することが大きな障害となってきた。今回の研究チームは、この問題を解決するために、子どもの玩具ブロックを積み重ねるように小さな部品を組み合わせて全体を作り上げるという発想を導入した。各モジュールを個別に最適化し、高い精度で動作させながら、それらをつなぎ合わせて一つのシステムにまとめることで、拡張のしやすさと柔軟な再構成の両方を可能にしたのである。この方式であれば、必要に応じてモジュールを追加したり交換したりできるため、従来の一体型設計では難しかった改良や調整もはるかに容易になると考えられている。
高精度を実証した成果
実験では、超伝導キュービットをケーブルでつなぎ、2つの装置の間で「SWAPゲート」と呼ばれる量子演算を行った。これは、2つの量子ビットの状態を入れ替える基本的な操作であり、複数のモジュールをつなげる上で欠かせない技術である。その結果、誤差は1%未満という非常に小さな値に抑えられ、忠実度はおよそ99%に達した。これは、演算がほぼ理想通りに行われたことを意味しており、高い精度を維持したまま異なる装置を接続できることを証明したのである。この成果は、モジュールを組み合わせても性能が落ちないことを示す重要な証拠であり、今後の量子コンピュータ開発にとって大きな前進となった。研究を主導したヴォルフガング・プファフ准教授は「組み立てた後でも高い性能を維持できる点が特に画期的だ」と強調している。
今後の展望と課題
研究チームは次のステップとして、これまでの2台接続にとどまらず、さらに多くのモジュールを組み合わせて一つの大きなシステムを作り出すことに挑戦する計画である。その過程では、ただ数を増やすだけでなく、計算中に起こりうるエラーを素早く検出し、システム全体が止まらないようにする耐障害性の仕組みを取り入れることも重要な課題となる。こうした改良を重ねることで、研究者たちは実際に使える量子コンピュータへと一歩ずつ近づこうとしている。研究を率いるプファフ准教授は「性能はすでに十分に高い水準にある。次は本当に大規模に拡張できるのかを確かめる段階だ」と語り、今後の発展に強い意欲を示している。
専門家解説

ポイント整理
専門家は、この研究の大きな意義を「量子コンピュータを状況に応じて組み替えられる柔軟性を高めたこと」にあると指摘している。従来のように一体型で作られた装置では、一部に不具合が起こればシステム全体を作り直さなければならず、修正には膨大な手間と時間がかかっていた。それに対して、モジュール型の設計であれば問題のある部分だけを取り外して交換したり、新しい技術に合わせて一部を改良したりできるため、効率的で実用性も高いとされている。さらに、この柔軟性は単なる量子計算機の改良にとどまらず、都市と都市をつなぐ量子ネットワークや次世代の通信インフラの基盤としても活用できる可能性があると期待されている。
さらに解説
量子コンピュータの研究で最も大きな課題とされてきたのは、規模を大きくしていくことと、そこで発生する誤差を正しく補正することを同時に実現する点である。今回の成果は、その難題に対して小さなユニットをいくつも接続するという方法を取り、制御の負担を分散させながら高い精度を維持できることを示した点で非常に革新的だといえる。この方式は将来的に、エラーに強い「耐障害型量子計算機」の実現を早めるだけでなく、世界規模での量子インターネットの発展にも直結する可能性を持つ。特に、大規模なネットワークを作る上で、ケーブルを使って異なるモジュール同士を高品質に接続できることは、これまでにない大きな前進であり、実用化への道を切り開く重要なステップと考えられている。
キーワード解説
量子ビット(Qubit)
量子情報を扱う基本単位で、0と1の両方を同時に表現できる。並列計算を可能にし、従来コンピュータを超える性能の源となる。
忠実度(Fidelity)
量子操作の正確さを表す指標。1に近いほど理想に近く、誤差の少ない計算が可能である。
超伝導キュービット
超低温環境で電気抵抗がゼロになる超伝導体を利用した量子ビット。商業化の有力候補とされる方式である。
SWAPゲート
2つの量子ビットの状態を入れ替える操作。複数モジュール間の接続に欠かせない基本演算である。
モジュール型設計
小規模ユニットを組み合わせて大規模システムを構築する方式。拡張性と再構成性を兼ね備えている。
耐障害性(Fault-tolerance)
エラーが発生しても全体の計算を維持できる仕組み。量子コンピュータの実用化に不可欠な要素である。
まとめ

イリノイ大学の研究チームが発表したモジュール型量子コンピュータは、従来の限界を乗り越える重要な成果である。この仕組みは、まるでLEGOブロックのように部品を組み立てて拡張できる設計を採用しており、必要に応じて柔軟に規模を広げながらも高い精度を維持できる点に大きな特徴がある。これによって、量子ネットワークの構築や産業分野での実用化に向けて新しい道が開かれたといえる。さらに、研究が順調に進めば、量子インターネットや強力な分散型計算の仕組みが社会に普及し、日常生活や産業のあり方を大きく変える未来が近づく可能性が高い。この革新的な技術がどのように発展していくのか、引き続き注目していく価値があるだろう。
参考文献
- SciTechDaily – Scientists Build Quantum Computer That Snaps Together Like LEGOs
- Nature Electronics (DOI: 10.1038/s41928-025-01404-3)

